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作家・西加奈子が軽井沢高原教会に寄せて書き下ろしたショートストーリー。
 

 
『あなたのからだ』 西加奈子
その人を思うと胸が苦しくて眠れなくなる、
食欲がなくなってしまう、
泣きたくないのに涙が出てくる。
それを過去の先輩たちは「恋わずらい」と名づけた。
病という冠がついているけれど、
恋わずらいはきっと、未来のある病だ。
眠れなかったあの夜も、溢れてきた涙の温度も、
知らぬ間にあなたのからだに蓄積されている。
あなたは覚えていなくても(忘れたくても!)
からだが覚えている。
淘汰されてしまった思い出を、
病特有のしつこさで、ずっと記憶している。
恋の記憶を孕んだあなたのからだは、空っぽのそれより強い。
痛みと、甘やかさと、たくさんの涙と熱で出来たあなたのからだを、愛そう。
それは世界でたったひとつの美しさだ。
過去のあなたが用意してくれた、あなただけの美しさなのだ。
 
西 加奈子(にし かなこ、1977年5月7日 – )は、日本の小説家。
イラン ・テヘラン生まれ。
エジプト・大阪府堺市、現南区の泉北ニュータウン育ち。
 
自分のことを「うち」といい、大阪弁全開で話す彼女は、実に気さくで大らかで、そして感受性の豊かな女性。
カイロで過ごした小学生時代や、本も音楽も映画も含めた中で一番衝撃を受けたというある女性作家
 
『ぴあ』のライターを経て、2004年『あおい』でデビューする。
2005年『さくら』が20万部を超えるベストセラーとなる。
2012年5月、『きいろいゾウ』が、宮崎あおいと向井理出演で映画化され、2013年に公開された。
 
第152回芥川賞と直木賞の選考会が15日夜、東京で開かれ、直木賞に西加奈子さんの「サラバ!」が選ばれました。